合コンでおしっこ漏らした日。

「軽そうだね」

昨日の合コンで女の子に言われた。

どうやら僕の態度がやり手っぽく映ったらしい。

「なにがですか?」

僕は不思議に思った。

なぜなら僕は
「乾杯」の時点で
もうおしっこを漏らしていたからだ。

冷えたジョッキに浸かってる生ビールが、
僕には

「ふん。型にハマりやがって」

と固定された業務から出ない気だるく作業をこなす
パート従業員に感じられた。

僕という物体を包み込むほかほかする座布団が
おでんの大根みたいにふやけていた。

もちろん匂いも。

コンビニエンス。

僕は会計時に
レジ横でぐつぐつと煮えるコンビニのおでんを彷彿していた。

おでんは煮汁の湯気で店内のガラスを
モザイクのように曇らせていた。
僕にも、必要。

「汚点」

僕は「おでん」との語感の響きを堪能し、
ゆるりと息を吐いた。

そのブレスは薄荷の香りがして、
僕は自分がこの合コンのために気合で
ブレスケア2粒、フリスク3粒を食していた事を思い起こさせた。

嗅覚を刺激されたせいだろう。

「なにやってんだ俺」

僕は急に我に帰り、自身が無意味に
窮地に立たされている事を実感した。

「これ、認識されたら嫌われる」

僕はこの場が市民プールではない事に唇を噛んだ。
居酒屋の和室で

尿などしてはいけなかった。

僕は今日の合コンを誰よりも楽しみにしていた。

この数日前、わざわざ新しい帽子を買って、
でも床屋にも行ったので今日は被って来なかった。

二度手間。

そんな事案も笑い飛ばせるほど、
僕の気分は高揚していた。

僕は合コン開始の2時間前から
緊張の為か
友達の文也と大量の酒を飲み、
部屋で着替えを何度も繰り返し、時が過ぎるのを期待した。

その反動が乾杯の合図と共に
僕から好機の強奪にかかった。

身から出た水。

そんな諺が脳裏をよぎった。

でもここは乗り切ろう。

僕は自分が小便たれなんて認めなかった。
女性陣とLINEを交換するまで

僕のズボンの股間周辺は誰にも見せない。

そう心に固く誓った。

花札。

僕は濡れたズボンに正月に楽しむ
花札を感じていた。

相手に見せないのが、通。

それは名刺とは逆の紳士だけに課せられた趣だった。

そのせいだろう。
僕は口数が多くなっていた。

女性からの「軽そう」

この言葉が僕の成功を物語っていた。

僕と同じくらいの量のお酒を飲んだ筈の
文也は、平常運転で

「俺は映画に生き様を教わった」

等と、ムービー撮影したいくらいの口説き文句を並べていた。

うらやましい。

僕は文也に嫉妬した。
嫌、文也の丈夫な膀胱に嫉妬した。

タンクローリーにも感じられた。

唐突に女の子のひとりが
「私、営業の人と付き合ってたー」
と言葉を転がした。

壁紙に貼られた「5時まで営業」という文字に
感化されたんだろう。

僕は口火を切った。

「営業かぁ。トイレとか大変そうだよね」

僕はトイレのことで頭がいっぱいだった。

自ら話題にトイレを招き入れてしまった。

「なんか臭くない?」

男友達のひとりが言葉を転がした。

僕は背中に汗をかき、
「なんか変なニオイするね」などと言う皆の
動向を横目で確認していた。

これはマズイ。

僕はもう自分のズボンにビールをこぼそう、
そう決意した。
大量にこぼせば、ダイジョウブ。

僕は絵の具のパレットを彷彿していた。
どんな色でも僕が混ぜると深いオレンジになった。

おしっこも一緒。

僕が自らのデニムとビールを科学者の如く
混ぜ合わせようとした、その刹那、

「ごめんよぉっ!」

と文也が叫んだ。

そして自らのズボンを指差し、

「ウンコ漏らしてました!」

と、くるっと反転し汚物の沈殿した箇所を強調した。

文也は目にはいっぱいの涙をためていた。
僕は
「なんだ、お前もだったのか」と心を打たれた。

僕はどっと沸く周囲の笑い声に
自分が助かったことを確認しつつ、

今日の獲物を冷静に物色し始めた。

文也には
「お前、今日は無理だから。」
と耳元で伝えた。

季節は正月明け。

自らの勝負デニム「501」を
聖水で浸した僕は、

密閉された小部屋で

冬の乾燥した風を期待していた。


#恋愛 #エッセイ #お笑い



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