「ふざけんじゃねーぞ!バカヤロー」 「ナメてんじゃねーぞ!コラァ」 数年前の冬の 深夜の駅のホーム。 若者が怒鳴っていた。 近くにいた僕と 中年サラリーマンたちは 驚きに眉を顰めた。 同じ中年。 「大きな声は、カラオケで」 のアムラー世代だからだ。 どうやら1対1でケンカを してるらしい。 肩でもぶつかったんだろうか? 二人とも20代。 肩は大切な時期だ。 投手では無くても、 肩は暖めていたい。 冬なら尚更。 僕は勝手な解釈を行うと充足し、
僕は友達と居酒屋で飲んでいた。 その友達は中学時代の同級生で、 性格は優しくてイイ奴なのだが、 会話のつまんなさから 「ハミング」と呼ばれていた。 そう。 僕らに届く彼の声は もう言語として、情報として扱われていなかった。 でも彼は、そう呼ばれていることを 「いい声してるから」 とポジティブに捉えていた。 そこがまた彼の性格の良さだが 僕らはビブラートの如く震えていた。 その日も彼は 「今日、晴れてた。とても晴れてた」 と価値ゼロの会話を仕
「国語の教科書見せて」と、頼んだら 快く「自分で書いてる国語のノート」を貸してくれたモッサン。 モッサンは小学校の同級生。 当時の僕は「お前は芥川龍之介か」などと 突っ込めるワケもなく、 唇をすぼめながら彼のノートを開いた。 するとそこには、見たこともないシールがところ狭しと貼られていた。 それが僕が初めて見た 「ラーメンばあ」というシールだった。 モッサンは、ビックリマンシールに嫉妬していた。 「もうサロンパスでよくねえ?」 彼のコダ
「部屋でもいいから描けよ」 直輝君は座椅子に深く腰掛けながら 僕に言った。 どうやら僕が大学の講義にも 校舎に隣接されたアトリエにも出ないで バイトばかりやってることに腹を立てたらしい。 直輝君は夏休みにやった日雇いバイトで腰を痛めていて、 部屋でも座椅子を使っていた。 僕にはその体勢と口調が 飛行船の司令官のように感じられて なんだかおもしろかった。 僕の口角がゆるりと湾曲する。 それを見て直輝君は 年下の子供を嗜めるようにわざと眉間に
僕はコンビニで 漫画雑誌を眺めていた。 購入するお金は持っていない。 なので、表紙だけを目で撫で 流行りの漫画タイトル、絵柄等 「まさに表面」という限られた情報だけで 漫画業界の流れを把握しようとしていた。 「このコンビニでは母に渡された千円で時々夕飯を購入するので許してね」 と思っていた。 すると、横から 怪しい陰。 僕に 「いつものヤバいやつ来てんじゃん」 的な 認識をしてる店員さんかと思ったら 立ち読みをしている ひとりのヤンキー中学生だった。
友達の文也はパチスロが大好き。 「数時間で10万勝ったぜ」 と僕にファンフーレのような電話をくれて、 安居酒屋でお酒を奢ってくれる。 飲むビールは僕にとっては雨を待ってた草木が欲する水分で、 文也にとっては寝汗のようなものだ。 「気にすんな」 文也はいつも言う。 でも彼はその翌日に10万掏ったりする。 お金のない僕は申し訳ない程度に文也の煙草を買う。 彼はコンビニの前で煙をくゆらせながら 「うめぇー」と言う。 文也の笑顔はとても数百