短足な友達。

短足過ぎる、という理由で

「ペガサス」とあだ名が付けられていた高校時代の友人。

足が短いからっていう理由なら「馬」でよくない?
と思ったのだが、
彼にはキチンと翼が生えていた。

そう、彼は耳がとても大きかった。

一般学生の2倍ほども。

耳で空は飛べないだろ。

そんな言葉が学食で飛び交っていたが、
そんな時、ペガサス君は決まって

ぴく・・・ぴく・・・

と、耳を動かした。

ダンボ。

それはやはり翼ではなく耳だった。

微炭酸。

彼の真剣な眼差しで行われる

「馬は嫌なの」という僅かな抵抗は
一周廻って、僕たちの共感を呼んだ。

ほんの少し、舌にピリッと感じる炭酸だった。

それにペガサス君はいいヤツだった。

彼は、他学年の先生、後輩、学食のおばさんにも
毎日きちんと挨拶をしていた。

彼の事を良く思っていたんだろう。
一度、パンを買っていた彼に
学食のおばさんが大盛りのカレーをサービスしてくれた。

僕の高校のカレーは激辛で美味しく、
彼はお礼を言うと
ニコニコしながら笑顔で平らげた。

僕が、彼が辛い物をまったく食べれない事を知っのは後日だった。

「それでか。」

僕は、カレーを食べてる時の
彼の自慢の耳が
真っ赤に染まっていた事を思い出した。

僕らはペガサス君の性格の良さ、耳の大きさのせいで

彼がとても短足なことを
忘れていた。

一学期が始まって間もなく、

「学生服を腰で穿くのは禁止。
高校生らしい服装をしましょう。」

生活指導の先生たちが
校門で突然「腰パン狩り」を始めた。

僕たち2年3組のみんなは危惧した。

そう。
ペガサス君、狩られちゃう。

忘れていたけどペガサス君の足はとても短い。

彼のベルトは
腰パンのヤンキーよりも下部に位置していた。

彼は優等生だった。
制服ズボンは規定の位置で穿いていた。

でもやはり彼は遠目では
ズボンをずり下げたヤンキーに見えてしまう。

きっと校則違反。

彼は生活指導の先生にぶん殴られる。

僕らはそう思っていた。

でも、現実は違った。
ペガサス君は

普通に校門という名の短足検問を突破して、

教室に来た。

「よかったな」

僕らは笑顔という名の祝福のシャンパンを弾かせた。

でも、ペガサス君本人は浮かない顔。

「おなか、減ってるのか?」

僕らは彼の犬のような表情を空腹のせいにした。

他人より歩数多いから、
おなか減ったんだろ?

僕らの無言の問いかけに
ペガサス君は
ぼそっ、と言葉を転がした。

「・・・先生が、
『お前はいい』って。
俺・・・ベルト忘れて来たのに」

大前提。

ペガサス君の足の尺は、生活指導内で既に
「アイツは違うから間違わないように」
と、決定事項だったのだ。

特待生。

ペガサス君は泣いていた。

ご自慢の耳も真っ赤になっている。

今日はカレー食べてないのに。

僕は悲しくなった。
彼の耳は赤くなるために備わってるんじゃない。

翔ぶためなんだ。

よし、みんなでスカート穿こうよ

僕はそう提案しようとしたが、
やめて置いた。

ペガサス君は剣道部だった。

彼は、
剣道着の袴から足が見えないために

「ジオング」

というあだ名を新1年生に陰でつけられていた。
そう、
彼の大きな両耳に、届かぬところで。

僕はふと校庭を見た。

桜の木が満開だった。
綺麗なピンクだ。

早くピンクになれ

僕はペガサス君の真っ赤な耳に
息をふーっと吹きかけた。

季節は春。

僕らの青春の背景となる校庭にも
春風が

ふーっと優しく息を吹きかけていた。

#お笑い #友情 #エッセイ #小説 #青春

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