中古なんだなあ。

友達の守河(かみかわ)君は無口だ。

コンビニで小包を送るときに
「送ってください」が言えなくて

「これ」と渡し、

店員さんに商品と勘違いされ
バーコードを探されて、
自宅から持ってきたものを買わされそうになった男だ。

以前はこんなことも。

僕が当時一年くらい付き合ってた彼女に
「もう電話しないで」
と言われ、

その3日後くらいに地元の駅前で友達と遊んでたら、

その彼女が他の男と手を繋いで歩いてた。

僕が「ぎゃあああああああ」
と言いながらその場でうずくまってたら、
他の友達は

「元気だせよ」とか優しい言葉をかけてくれたのに、
守河君だけ

「てか、今日どこ飲みに行く?」

とまったく意に介してなかった。

店員。

守河君はまるで駅前で客引きをする居酒屋の店員さんだった。

その日の僕は朝まで浴びるように酒を飲んだ。

大人の朝シャンだ。

そんな友達に無関心な守河君。

無口な守河君の誕生会を地元の友達でやることになった。

もう毎年の恒例なんだけど、
僕はそろそろムカついてた。

なんせ、僕は毎年、
守河君の似顔絵をプレゼントとして渡してる。

でも、
「ありがとう」など一言も言われたことが無い。

書くのもけっこう大変なのに。

渡しても「おう」と
プッシュボタンの音声のような返事をするだけだ。

どうせ、守河君は絵になんて興味がないのだろう。

僕の友達たちはドルガバやクロムハーツのブランド服
をプレゼントしてる。

でも今さら僕も似顔絵を渡さないのもなんなので、
今年も書いた。

ペンで下書き。
滲まないように耐水性ので。

色を塗る。

表面の質感を出すために
クレヨンで塗る。

トレードマークの髭を書いて完成。

けっこう時間かかったのにな、
なんて思いながら、
守河君の誕生会。

「はい、おめでとう」と渡すと
また「おう」と言われた。

うん。

もう別にいいぜ。

それが守河君の個性なんだろう。

僕が買ってったケーキのわざとの誤字も
普通に流された。

文字を不思議そうに書いてくれたケーキ屋さんの女子高生に
申し訳なかった。

そして、
いつものごとく大量の安酒を飲んで、

「おめでとうなー」と連呼して解散して、

家に帰ってベッドに入った。

冬の夜はなんだか身体が小さくなったよで寝苦しい。

体温で暖まっていない冷たいシーツ部分に触らないように体を縮める。

自分の布団にさえ
僕は人見知りなんだな、と薄明かりの中で苦笑いした。

枕に体重を預けながら
脇に鎮座してる時計を見つめて

「僕はなんで守河君とつるんでんだ?」
と不思議に思った。

ゆったりと時々動く長針。

僕と守河君が共にした時間は
決して短くない筈だ。

無口でサービス精神のかけらも無い友達。

例えば、普段はそれでよくても
僕が彼女が他の男と歩いてて凹んでるときくらい、
なにか言えよ。

そんなことを思いながら、
僕は眠りについた。

翌朝、二日酔い気味で目覚めると、

スマホの通知が光ってた。

開くと珍しく、守河君からのLINEだった。

文字で

「揃ってきた」

とだけ書かれていて、

写メが一枚貼られていた。

画像を開くと僕は驚いた。

僕が毎年、守河君に渡してきた似顔絵だった。

きちんと額に入れてとってくれてた。

そうか。

守河君は不器用なだけなんだ。

僕は忘れてたことを思い出した。

駅前で彼女が他の男と歩いてた日、
僕らは朝まで浴びるように酒を飲んだ。

他の友達はいつも以上に僕のアホ話に笑ってくれて、
優しい言葉をかけてくれた。

守河君はいつも通りに横に座って黙ってた。

僕は「なんか言えよ」と思ったけど、

朝になって解散するとき、友達が
「お前、夜勤だったんじゃないの?」と守河君に聞いてた。

「連絡入れたから平気だよ」

守河君はそう言うと「じゃあな」と帰って行った。

守河君は不器用だ。

僕が傷ついてると思って、
なにも言わず横に居てくれた。

僕はそのとき

「ああ、俺は表面上でしかひとを見てなかったんだな」
と思った。

そう。

そんなことも忘れていた自分を恥じた。

僕はベッドの横の時計を手に取った。

ゆったりと動く長針。

僕らは共にしてきた時間は短くない。

きちんと重なりで出来てるんだな、

そんな当たり前のことを思って、
僕は守河君のLINEに、

「次は汚いオッサンの似顔絵になるぞ」

と笑いながら送信した。

カーテンを開けると
冬の晴れ間。

青空に無言で寝そべるひとつだけの雲。

僕にはそれが
なんだか守河君ように思えて、

「二日酔いか?」と

と小声でニヤけながら聞いてみた。
 

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