友人が親友になった日。

僕は友達と居酒屋で飲んでいた。


その友達は中学時代の同級生で、

性格は優しくてイイ奴なのだが、

会話のつまんなさから
「ハミング」と呼ばれていた。

そう。
僕らに届く彼の声は
もう言語として、情報として扱われていなかった。

でも彼は、そう呼ばれていることを
「いい声してるから」
とポジティブに捉えていた。

そこがまた彼の性格の良さだが

僕らはビブラートの如く震えていた。

その日も彼は
「今日、晴れてた。とても晴れてた」
と価値ゼロの会話を仕掛けてきた。
僕は彼の唇から見え隠れする歯並びを見ていた。

だが、

次の刹那、事件は起きた。

「すみませーん」

突然、ハミングは変なポーズをしながら
店員さんを呼んだ。


なんすか、それ?

僕は切なくなった。


彼は程度の低い
「動きのギャグ」を
居酒屋店内で露呈してしまった。

視覚に訴えかける「動きのギャグ」なんて
よほど熟練しない限り、

学生ノリ以上に目もあてられない。

動きのギャグは喋りで笑わせられないヤツの
逃げ場所ではないんだ。

だからコイツはモテねーんだ。

バカヤロウ。

彼はひとり暮らしだった。
でも彼の普段の言動から
「だーれも女の子が訪ねて来ない」

という理由で
陰で

「ひとりきり暮らし」

と揶揄されていた。

今日は僕が居るだけ
儲けもんだと思え。

僕は彼に対して
無言の叱責を行っていた。

その瞬間、

「すみませーん」

とかわいらしい女性の声が店内に響いた。


なんと近くの席で飲んでた見知らぬ女子大生が

彼の「動きのギャグ」を
模倣していた。


そして

こちらを凝視してくすくすと
微笑んでいる。


「あれ?」

僕は
彼の撒いた種が
大輪の花を咲かそうとしているのを

多分に感じ取っていた。

バカヤロウは僕じゃないか。

「だれだ?
 『ひとりきり暮らし』なんて言い出したのは?」

「芸術は孤独から産まれる」

「彼の動きは言語を必要としない。国境をこえる。ハミングは機嫌の良い証拠」

僕の中で


彼は

本当の友達となった。

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ギャグ漫画を描いてます。
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