中学生と隠語。

「おう、だれかクサ持ってねーか?」
と、ヤンキー3年生がひとりで

クラスに乗り込んできた。

僕らは中学2年生。

「おう、2年坊!クサはねーんかよ!?」

ヤンキー3年生は
機関車トーマスのようだった。

クサとは大麻の隠語らしいが、
僕は当時
まだ勉強と部活しかした事のない
毛玉のような少年だったので

「ゲームソフトの事かな?」

とクサの意味が理解できなかった。

そこで、そーっと

隣にいた勝田君に聞いてみた。

「クサってなに?」

当時、勝田君はクラスで一番のヤンキーだった。

彼は「俺が2年3組の空条丈太郎」
と言い切っていた。

その証拠に
勝田君はクラスでひとりだけ

髪にムースをつけていた。

なので
僕は彼なら知ってると思ったのだ。

クラスの数人が勝田君に
視線を送った。

「クサってなんなの?」

「教えてよ、JOJO」

みんなが勝田君の解答に
期待していた。

「・・・・・。」

勝田君は黙っていた。

なんかプルプル震えてる。
真っ赤な顔をして唇の端には白い泡。

今にも和太鼓を叩きだしそうだった。

僕はすぐ

「あ、コイツ知らねーな」と気づいた。

でも、ここで答えなきゃ
明日から

髪のムースは没収だ。

そして今までの
クラスでの横暴な振る舞いは
今の、そして
これからの彼に集約する。

僕は
「まずは黒板ふきからだ」
と勝田君の役割を考えていた。

その刹那、
勝田君は動いた。

「先輩!
クサを何に使うんすか?」

勝田君はヒントを拾う作戦に出たのだ。
だが、クラスのみんなは気づいていない。

「勝田君、3年生と隠語で会話してる、
やっぱイケてるスタンド使い」

そんな感じだった。

「うるせー!」

だが、
無情にも3年生の言葉には拾うものが無かった。

勝田君は陸の孤島にいた。

整列させられた机たちが
彼の乱れた立ち位置をより顕著に
映し出した。

クラスみんなの視線だけが
彼に降りかかっていた。

「こりゃ勝田もう引けねーな」

僕はそう思い、今後の彼の
孤独な給食当番に期待した。

でも結果は違った。

追いつめられた勝田君は
3年生を
「てめーがクサだ!」

と殴って一発でKOした。

勝田君は

「ぐうう・・」と唸りながら
床に倒れこんだ3年生の頭上で
仁王立ちをしながら、

「あとで他の先輩を連れての仕返しとかはナシな!」

と言い放った。

「・・・それは勝田君が決めていいの?」

季節は春。

僕らの疑問を嘲笑うかのように

校舎の口笛のような春風が吹いた。

教室の窓から見下ろせる
校庭のグラウンド端の雑草は

「これが一番楽なんだ」

と言いながら
強引な風に、

身を任せていた。

#ショートショート #エッセイ #青春

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