彼女の画素数。
「僕が間違うハズが無い。」
友人は箸のように言葉を転がした。
友人の好きな子がAVに出ていた。
この驚愕の事実は
彼の財布の紐を緩めた。
大人買い。
彼はその子の出演している
アダルトDVDを全て購入した。
まさに大人買いだ。
女の子の名はモニコちゃん。
場末のキャバクラ嬢だ。
でも本当はモニコ嬢、
キャバクラ、ヘルス、AV女優、と
投打に優れていた。
ホップ、ステップ、ジャンプ。
モニコちゃんのスニーカーは貞操観念という壁を
見事に跳び越えた。
友人は探偵のように情報をくれた。
「モニコちゃんのエロ動画の無修正、流出したんだ」
モロ出し。
そのアダルトDVDは野外撮影モノだった。
裸で野外。
「もう相撲取りじゃないか」
僕は友人の呟きから耳を背けられなかった。
友人はキャバクラで出会ったモニコちゃんに惚れこみ、
貢いだ総額は、さらっと彼の年収を凌駕していた。
「モニコ、前にアダルトビデオに出演したよ」
接客中、本人からの突然の言葉に
友人が絶句したのがちょうど半年前。
彼が無理をしてオーダーした卓上のシャンパンが
虚しくため息のような小粒の気泡を出していた。
彼が夢にまで見たモニコちゃんの裸体は、
メルカリで120円で売られていた。
缶コーヒー。
友人は涙でパソコンのモニターを凝視出来なかったという。
「モニタちゃん」
僕の懇親のダジャレも
彼の涙を止める事は出来なかった。
「これ以上、モニコちゃんが脱ぐのはつらい」
友人は端の欠けた皿に盛られたキュウリを
味噌に付けながら言った。
モロ出しからの、モロキュウ。
ひどく原始的な料理。
味噌の焦げたような茶褐色が
今の彼の希望を表していた。
「もうAV出てるんだから更に
脱ぐ、ったってモザイク部分が消えるだけじゃないか」
木の葉。
僕は原始人のような格好のモニコちゃんに
もう何も求めるべきではない、と思った。
「ほら、見ろ」
友人はモロキュウを僕の顔に突きつけた。
そして、キュウリの深緑色の
皮の部分を指差し、
「キュウリでも服、着てるのに」
と小声で唸った。
そして、優しくキスをするようにテーブルに顔をうずめた。
相当酔っているようだ。
ここは立ち飲み屋。
椅子も置いていない、僕ら武器を持たないおじさんが
自らを愚弄するために敢えて起立して鯨飲する
悲しい岩だ。
僕と友人は
店内に男ふたりきり。
円形のテーブルが
僕ら二人を同率線上のものとして
諭しているかのようだった。
僕らはいつも一緒さ
女友達もお金もない僕ら。
胸板と財布の薄さが笑えてくる。
今の僕らには立って安酒を啜るのが
よく似合っている。
小学生時分の
廊下にバケツみたい。
反省の時間は
夏休みになっても続く。
「キューリ夫人・・」
泥酔した友人は、モロキュウとのダジャレとも取れる
情けない言葉を吐いた。
僕はすーすーと寝息を立てだした彼に
少し愛嬌を感じ、
「バカだな。モニコちゃんはキューリ夫人じゃなくて
エマニエル夫人だろ?」
と笑顔で、彼の背中にジャケットをかけた。
気の持ちよう。
僕はそう彼の肩に言葉を置くと、空を見上げた。
紅く染まった1月の夕暮れが
男優のビンタで腫れた
モニコちゃんのお尻に
よく似ていた。